硝子体手術(糖尿病網膜症)について
病名と病態
糖尿病網膜症は糖尿病の合併症の一つです。
網膜の細い血管に酸素が十分に行き渡らなくなり、網膜が酸欠に陥ります。
網膜は酸欠を改善するために血管内皮増殖因子(VEGF)という物質を産生し、新しい血管を作ります(新生血管)。
この新生血管は突貫工事で作られた血管であるため非常に脆く、血管が破れて出血したり(硝子体出血)、血管の周りが線維化して増殖膜となり、網膜を引っ張ったり(牽引性網膜剥離)します。
新生血管が作られるまでは自覚症状はありませんが、一度出血したり網膜剥離が生じると重篤な視力障害を生じます。
手術の目的
視力障害の原因となった硝子体出血や網膜剥離を改善するために、硝子体手術を行います。
手術の内容
強膜に4か所の切開創を作り、硝子体手術用の器具を硝子体腔内に挿入します。
カッターを用いて硝子体および硝子体出血を切除します。
網膜全周にレーザーを照射し、新生血管の退縮を促します。
増殖膜が生じている場合は、カッターや鑷子を用いて増殖膜を除去します。
圧迫棒を用いて眼を圧迫しながら周辺網膜に異常がないことを確認し、レーザーを追加照射します。
網膜剥離が強い場合は、眼内に特殊なガスやオイルを入れることがあります。
最後に切開創を閉じて手術終了です。
白内障手術が行われていない場合は、同時に白内障手術を行います。
手術は点眼と注射による局所麻酔で仰向けの姿勢で行い、手術時間は通常1時間程度です。
増殖膜と網膜剥離の程度が強い場合は、手術時間が長くなります(2時間以上かかることもあります)。
手術の合併症
1. 眼内炎
傷口から眼の中に細菌や真菌(カビ)が入り、眼内で繁殖することで重篤な視力障害が生じ、最悪の場合失明に至ることがあります。
眼内炎が発症した場合早期に処置が必要になりますので、急激な視力低下・眼痛・充血・眼脂の増大などの症状が現れたらすぐに当院(当院が休診日の場合は近隣の眼科)を受診してください。
2. 駆逐性出血
手術中に眼の中で突然出血が起こり、重篤な視力障害の原因となることがあります。
血圧が極めて高かったり、手術中に目に力を入れてしまうと起こる確率が高くなるので、なるべくリラックスした状態で手術を受けるようにお願いします。
手術中は血圧を定期的に測定し、場合によっては血圧を下げる点滴をすることがあります。
3. 網膜裂孔・網膜剥離
手術中にカッターや鑷子が網膜に接触した場合や、網膜と増殖膜の癒着が強い場合、硝子体が網膜から剥がれる際に、網膜に穴が空いたり(網膜裂孔)、網膜が剥がれたり(網膜剥離)することがあります。
網膜裂孔には裂孔周囲にレーザーを照射して、網膜剥離に進行するのを予防します。
網膜剥離には眼内に特殊なガスやオイルを注入し、網膜を復位させます。
ガスやオイルを入れた場合は、ガスやオイルの浮力によって網膜を復位させる関係で術後しばらく(少なくとも術後1-2日)の間、食事とトイレ以外はうつ伏せの姿勢をとる必要があります。
ガスを入れた場合はガスが完全に抜けるまで約2週間かかります。
ガスが半分以下になるまでの約1週間は、術後ほとんど見えません(視力が出ません)。
オイルを入れた場合は自然に抜けることはないので、術後数ヶ月経過後にオイルを抜く追加の手術が必要になります。
4. 白内障の進行
白内障手術を行わない場合、硝子体手術を行うことで白内障が進行します。
上記合併症により、手術時間が延長したり、再手術が必要になる場合があります。 また、現在よりも視力が低下する、最悪の場合失明に至ることがあります。
手術後の留意点
結膜下出血
手術直後に、結膜(白目)の出血で目が赤くなり、元に戻るまで2-3週間かかることがあります。
結婚式や集会などで写真撮影を控えている場合はご注意ください。
疼痛・異物感
手術後は「ゴロゴロ感」「しみる感じ」「軽い圧迫感」などを感じることがありますが、強い痛みを感じることは通常ありません。
しかし、眼の状態が特殊であったり、手術中に特別な処置を施す必要があった場合には、稀に強い痛みを感じることがあります。
手術直後に強い痛みを感じる場合は、痛み止めの薬を処方しますので、遠慮せずに職員にお伝えください。
再手術の可能性
手術中は合併症なく手術が終了した場合でも、手術後数日~数週間して網膜裂孔や網膜剥離が発症する可能性があります。
硝子体出血や増殖膜が再発することもあります。
その場合はレーザー治療や追加の硝子体手術が必要になります。
視力回復までの期間
手術後に視力が回復する速さには個人差があります。
手術後1週間程度で視力が回復する人もいれば、回復までに1ヶ月程度かかる人もいます。
網膜の機能が傷んでしまっていて、ほとんど視力が出ない人もいます。
また、術後視力が完全に安定するまでに6ヶ月程度かかります。
手術後の生活
術後の点眼・入浴・洗顔・洗髪・仕事復帰・車の運転などは別紙の指示に従っていただきますが、気になる点がありましたら職員にご相談ください。
代替可能な治療
硝子体出血や増殖膜による症状を改善するには、手術によって硝子体出血や増殖膜を取り除く以外に方法はありません。
手術を行わなかった場合に予想される経過
硝子体出血は自然経過で出血が吸収される可能性があります。
2週間程度経過を見て、出血が引きそうな場合はそのまま様子を見ることもあります。
2週間たっても出血が引きそうにない場合は手術が必要です。
増殖膜は自然経過で改善することはありません。
放置すると深刻な視力障害を引き起こす可能性があります。