硝子体手術(網膜剥離)について
病名と病態
網膜剥離とは、加齢や近視、外傷などによって網膜に穴が開き、そこから網膜の裏に水が回って、網膜が脈絡膜から剥がれてしまう病気です。
網膜が剥離した部位に応じて視界が欠けて見えます。
黄斑という視力に最も関係のある部分の網膜が剥がれてしまうと、急激な視力低下を生じます。
網膜剥離の範囲は時間の経過とともに広がっていき、放置すると網膜の機能が低下してしまい、最悪の場合失明に至ります。
手術の目的
網膜剥離による視力低下や視野欠損などの諸症状を改善するために、網膜を復位する手術を行います。
手術の内容
強膜に4か所の切開創を作り、硝子体手術用の器具を硝子体腔内に挿入します。
カッターを用いて硝子体をある程度切除した後、裂孔周囲の硝子体を丁寧に切除します。
圧迫棒を用いて眼を圧迫しながら周辺硝子体も切除し、網膜の他の場所に異常がないかを確認します。
網膜下に入ってしまった水を吸引しながら眼内に空気を入れて、網膜を脈絡膜に接着させます。
裂孔の周囲にレーザーを照射し、網膜と脈絡脈の接着を強めます。
最後に眼内に特殊なガスを入れて、切開創を閉じて手術終了です。
白内障手術が行われていない場合は、同時に白内障手術を行います。
手術は点眼と注射による局所麻酔で仰向けの姿勢で行い、手術時間は通常1時間程度です。
網膜裂孔が複数ある場合や、網膜剥離の範囲が広い場合、網膜剥離以外に眼の病気がある場合は、手術時間が長くなることがあります。
手術の合併症
1. 眼内炎
傷口から眼の中に細菌や真菌(カビ)が入り、眼内で繁殖することで重篤な視力障害が生じ、最悪の場合失明に至ることがあります。
眼内炎が発症した場合早期に処置が必要になりますので、急激な視力低下・眼痛・充血・眼脂の増大などの症状が現れたらすぐに当院(当院が休診日の場合は近隣の眼科)を受診してください。
2. 駆逐性出血
手術中に眼の中で突然出血が起こり、重篤な視力障害の原因となることがあります。
血圧が極めて高かったり、手術中に目に力を入れてしまうと起こる確率が高くなるので、なるべくリラックスした状態で手術を受けるようにお願いします。
手術中は血圧を定期的に測定し、場合によっては血圧を下げる点滴をすることがあります。
3. 網膜再剥離
手術にて網膜が復位した場合でも、網膜と脈絡膜の接着が弱いと、術後数日~数週間で網膜再剥離を起こすことがあります。
その場合は再度硝子体手術が必要になります。
4. 白内障の進行
白内障手術を行わない場合、硝子体手術を行うことで白内障が進行します。
上記合併症により、手術時間が延長したり、再手術が必要になる場合があります。
また、現在よりも視力が低下する、最悪の場合失明に至ることがあります。
手術後の留意点
手術後はうつ伏せが必要
網膜剥離は眼内に特殊なガスやオイルを注入し、網膜を復位させます。
ガスやオイルの浮力によって網膜を復位させる関係で術後しばらく(少なくとも術後1-2日)の間、食事とトイレ以外はうつ伏せの姿勢をとる必要があります。
ガスを入れた場合はガスが完全に抜けるまで約2週間かかります。
ガスが半分以下になるまでの約1週間は、術後ほとんど見えません(視力が出ません)。
オイルを入れた場合は自然に抜けることはないので、術後数ヶ月経過後にオイルを抜く追加の手術が必要になります。
手術後は安静が必要
術後経過が良好でも、術後1ヶ月程度は網膜再剥離の危険性が高いので、術後は安静にお過ごしいただき、指示された体位を守るようにしてください。
1ヶ月間は力作業や激しい運動はお控えください。
結膜下出血
手術直後に、結膜(白目)の出血で目が赤くなり、元に戻るまで2-3週間かかることがあります。
結婚式や集会などで写真撮影を控えている場合はご注意ください。
疼痛・異物感
手術後は「ゴロゴロ感」「しみる感じ」「軽い圧迫感」などを感じることがありますが、強い痛みを感じることは通常ありません。
しかし、眼の状態が特殊であったり、手術中に特別な処置を施す必要があった場合には、稀に強い痛みを感じることがあります。
手術直後に強い痛みを感じる場合は、痛み止めの薬を処方しますので、遠慮せずに職員にお伝えください。
視力回復までの期間
手術後に視力が回復する速さには個人差があります。手術後1週間程度で視力が回復する人もいれば、回復までに1ヶ月程度かかる人もいます。
また、術後視力が完全に安定するまでに6ヶ月程度かかります。
手術後の生活
術後の点眼・入浴・洗顔・洗髪・仕事復帰・車の運転などは別紙の指示に従っていただきますが、気になる点がありましたら職員にご相談ください。
代替可能な治療
網膜剥離による症状を改善するには、手術によって網膜剥離を復位する以外に方法はありません。
手術を行わなかった場合に予想される経過
自然経過では網膜剥離が改善することはありません。
放置すると重篤な視力障害を生じ、最悪の場合失明に至ります。