網膜光凝固(糖尿病網膜症)について
病名と病態
糖尿病網膜症は糖尿病の合併症の一つです。
網膜の細い血管に酸素が十分に行き渡らなくなり、網膜が酸欠に陥ります。
網膜は酸欠を改善するために血管内皮増殖因子(VEGF)という物質を産生し、新しい血管を作ります(新生血管)。
この新生血管は突貫工事で作られた血管であるため非常に脆く、血管が破れて出血したり(硝子体出血)、血管の周りが線維化して増殖膜となり、網膜を引っ張ったり(牽引性網膜剥離)します。
新生血管が作られるまでは自覚症状はありませんが、一度出血したり網膜剥離が生じると重篤な視力障害を生じます。
治療の目的
酸欠を起こしてしまった部分の網膜にレーザーを照射して、故意に網膜を萎縮させます。
そうすることで酸欠を起こしていない部分の網膜に十分に酸素が行き渡るようにして、残った網膜の機能を温存するとともに、VEGFの産生を抑制し、新生血管が作られるのを防ぎます。
治療の内容
麻酔の目薬をした後、眼にレンズを載せて、顕微鏡で観察しながらレンズ越しに網膜へレーザーを照射します。
治療は点眼による局所麻酔で座位の姿勢で行い、治療時間は通常10分程度です。
治療の合併症
1. 黄斑浮腫の悪化
レーザー照射により炎症が生じるため、黄斑浮腫が発生または増悪し、視力が低下することがあります。
黄斑浮腫の治療薬である抗VEGF抗体やステロイド薬の注射を行います。
2. 硝子体出血
レーザー照射により網膜血管が破綻して出血を生じることがあります。
装着しているレンズで目を圧迫することで、ほとんどが止血可能です。
3. レーザー瘢痕の拡大
レーザー照射後、数ヶ月~数年かけてレーザー瘢痕が拡大することがあります。
瘢痕が黄斑まで拡大してしまうと、急激な視力低下や視野狭窄が進行します。
4. 夜盲・視野狭窄
レーザーを照射した部位の網膜は萎縮して機能を失うため、夜盲(夜や暗いところが見えにくい)や視野狭窄(周辺の視界が見えない)を生じることがあります。
治療後の留意点
治療後の目薬
レーザー後に新たな目薬を追加する必要はありません。
治療後の生活
レーザー後の入浴・洗顔・洗髪・仕事・車の運転などの制限は特にありません。
気になる点がありましたら職員にご相談ください。
治療後の定期通院
レーザー照射をしても新生血管の退縮を完全に抑えられるわけではありません。
硝子体出血や網膜剥離の発症を防ぐために、継続的な通院・経過観察が必要になります。
代替可能な治療
1. 抗VEGF薬硝子体注射
VEGFを直接的に抑制する成分を目の中に注射します。
効果は1-3ヶ月程度しか持続しないため、半永久的に注射を繰り返す必要があります。
治療を行わなかった場合に予想される経過
自然経過では糖尿病網膜症の進行を抑えることができません。
進行すると硝子体出血や網膜剥離を生じて重篤な視力障害となり、日常生活に支障をきたします。