緑内障手術(流出路再建術)について
病名と病態
緑内障とは、網膜の神経が障害を受けて視野が欠けていく病気で、眼圧の上昇がその原因の一つとされています。
放置すると症状が進行し、日常生活に支障をきたします。
眼球内部は房水と硝子体が充満しています。
房水は絶えず毛様体から産生され、線維柱帯から排出されています。
この房水の産生と排出のバランスで眼圧が保たれています。
緑内障の方は線維柱帯が目詰まりを起こしていて、房水の排出が減少しているため、眼圧が上昇しやすくなっています。
手術の目的
目詰まりを起こしている線維柱帯を切開して、房水の排出量を増やすことで、眼圧を下降させます。
手術の内容
角膜に切開創を作り、線維柱帯を切開する道具を目の中に入れ、線維柱帯を切開します。
切開することで出血が生じるため、出血を洗い流し、出血が止まったことを確認したら切開創を閉じて終了です。
手術は点眼による局所麻酔で仰向けの姿勢で行い、手術時間は通常10分程度です。
手術の合併症
1. 眼内炎
傷口から眼の中に細菌や真菌(カビ)が入り、眼内で繁殖することで重篤な視力障害が生じ、最悪の場合失明に至ることがあります。
眼内炎が発症した場合は早期に処置が必要になりますので、急激な視力低下・眼痛・充血・眼脂の増大などの症状が現れたらすぐに当院(当院が休診日の場合は近隣の眼科)を受診してください。
2. 前房出血
線維柱帯を切開することで、目の中に血液が逆流してくるので前房出血がほぼ100%起こります。
これは線維柱帯が正しく切開された証明でもあります。
ほとんどの方の出血は少量で、通常は1週間程度で自然吸収されますが、その間は一時的に手術前よりも見えにくくなります。
また、大量に出血したり、出血の吸収が遅かったりして、眼圧上昇につながる場合があります。
その際は前房を洗い流す手術を追加で行います。
3. 一過性眼圧上昇
術後数日して眼圧が急激に上昇することがあります。
特に前房出血が吸収されていく時期に認める場合が多いです。
多くは1週間以内に改善しますが、点眼薬や内服薬を使って眼圧をコントロールします。
4. 角膜内皮障害・虹彩損傷・毛様体解離
線維柱帯と角膜・虹彩・毛様体は距離的に非常に近い場所にあるため、線維柱帯切開の際に角膜・虹彩・毛様体を傷つけてしまうことがあります。
角膜内皮障害により最悪の場合水疱性角膜症を発症し、角膜移植が必要になることがあります。
虹彩損傷により前房出血が生じます。
毛様体乖離により眼圧が下がりすぎて脈絡膜剥離や低眼圧黄斑症を発症して、視力が低下することがあります。
5. 白内障の進行
手術により目の中に炎症が起きるので、白内障が進行することがあります。
上記合併症により、手術時間が延長したり、再手術が必要になる場合があります。
また、現在よりも視力が低下する、最悪の場合失明に至ることがあります。
手術後の留意点
結膜下出血
手術直後に、結膜(白目)の出血で目が赤くなり、元に戻るまで2-3週間かかることがあります。
結婚式や集会などで写真撮影を控えている場合はご注意ください。
疼痛・異物感
手術後は「ゴロゴロ感」「しみる感じ」「軽い圧迫感」などを感じることがありますが、強い痛みを感じることは通常ありません。
しかし、眼の状態が特殊であったり、手術中に特別な処置を施す必要があった場合には、稀に強い痛みを感じることがあります。
手術直後に強い痛みを感じる場合は、痛み止めの薬を処方しますので、遠慮せずに職員にお伝えください。
手術後の生活
術後の点眼・入浴・洗顔・洗髪・仕事復帰・車の運転などは別紙の指示に従っていただきますが、気になる点がありましたら職員にご相談ください。
緑内障自体が治るわけではない
緑内障は神経の病気であり、完治が見込める病気ではありません。
手術はあくまでも眼圧を下げて緑内障の進行速度を遅くするのが目的であり、手術をしても緑内障が完治したり、視野や視力が改善することはありません。
追加手術が必要になる可能性
術後しばらくして、線維柱帯が再び閉塞してしまうと、眼圧が再上昇することがあります。
点眼を追加して眼圧をコントロールしていきますが、眼圧コントロールが不良の場合は再手術が必要になります。
代替可能な治療
1. 点眼
目薬の種類を変更したり、目薬の数を増やしたりすることで、眼圧を下げます。
目薬の効き目には個人差があり、眼圧が下がらなかったり、アレルギーにより使用できない場合があります。
2.レーザー線維柱帯形成術(SLT)
線維柱帯にレーザーを照射することで、房水の排出を増やして眼圧を下げます。
レーザーの効き目には個人差があり、眼圧が下がらなかったり、一度下がってもしばらくして再上昇することがあります。
3. 濾過手術(緑内障治療用インプラント挿入術(プレートのないもの)を含む)
線維柱帯を切除して目の中と外を交通させ、新たな房水の出口を作ります。
流出路再建術よりも眼圧下降効果が大きいですが、手術時間が長く合併症も大きいです。
4. 緑内障治療用インプラント挿入術(プレートのあるもの)
アーメド緑内障バルブという器具を強膜に縫い付け、バルブから出るチューブによって目の中と外を交通させ、新たな出口を作ります。
濾過手術で眼圧が下がらなかった場合や、重症の緑内障の場合に行う手術です。
5. 毛様体光凝固術
目の外から毛様体にレーザーを照射して、房水の産生を抑え、眼圧を下げます。
マイクロパルス波毛様体光凝固術というものもあり、こちらは房水の排出を増やして眼圧を下げます。
予想以上に房水が作られなくなってしまい、眼球癆(眼球が縮んで、目としての機能を失う)になるリスクがあります。
特殊なレーザー装置が必要で、扱っている医療施設が限られています。
6. 白内障手術
白内障がある場合、白内障手術を行うことで眼圧がわずかに(1-2 mmHg)減少します。
手術を行わなかった場合に予想される経過
自然経過では緑内障の進行を抑えることができません。
加齢とともに緑内障は進行していき、視野障害や視力障害が悪化し、日常生活に支障をきたします。