緑内障手術(緑内障治療用インプラント挿入術)について
病名と病態
緑内障とは、網膜の神経が障害を受けて視野が欠けていく病気で、眼圧の上昇がその原因の一つとされています。
放置すると症状が進行し、日常生活に支障をきたします。
眼球内部は房水と硝子体が充満しています。
房水は絶えず毛様体から産生され、線維柱帯から排出されています。
この房水の産生と排出のバランスで眼圧が保たれています。
緑内障の方は線維柱帯が目詰まりを起こしていて、房水の排出が減少しているため、眼圧が上昇しやすくなっています。
手術の目的
アーメド緑内障バルブという器具を強膜に縫い付け、バルブから出るチューブによって目の中と外を交通させ、新たな出口を作って眼圧を下降させます。
手術の内容
結膜を切開した後、強膜にアーメド緑内障バルブを縫い付け、バルブから出るチューブを目の中(硝子体腔または毛様溝)に挿入し、目の中と外を交通させます。
この時点で目の中と外の交通ができます。
強膜弁を作成して強膜弁でチューブを覆い、最後に結膜を縫合して終了です。
手術は点眼と注射による局所麻酔で仰向けの姿勢で行い、手術時間は通常1時間程度です。
なお、白内障手術をしていない場合この手術を行うことができないため、事前に白内障手術を行います。
また、硝子体腔内にチューブを挿入する場合は事前に硝子体手術を行います。
手術の合併症
1. 眼内炎
傷口から眼の中に細菌や真菌(カビ)が入り、眼内で繁殖することで重篤な視力障害が生じ、最悪の場合失明に至ることがあります。
眼内炎が発症した場合早期に処置が必要になりますので、急激な視力低下・眼痛・充血・眼脂の増大などの症状が現れたらすぐに当院(当院が休診日の場合は近隣の眼科)を受診してください。
2. 前房出血・硝子体出血
チューブを眼内に挿入する際に眼内の血管を傷つけることで、前房出血や硝子体出血を起こすことがあります。
ほとんどの方の出血は少量で、通常は1週間程度で自然吸収されますが、大量に出血したり、出血の吸収が遅かったりして、眼圧上昇につながる場合があります。
その際は前房や硝子体を洗い流す手術を追加で行います。
3. 駆逐性出血
術中に生じる低眼圧により、眼の中で突然出血が起こり、重篤な視力障害の原因となることがあります。
血圧が極めて高かったり、手術中に目に力を入れてしまうと起こる確率が高くなるので、なるべくリラックスした状態で手術を受けるようにお願いします。
手術中は血圧を定期的に測定し、場合によっては血圧を下げる点滴をすることがあります。
4. 術後低眼圧、脈絡膜剥離、低眼圧黄斑症
アーメド緑内障バルブには弁がついており、眼圧が一定以上ないと弁が開かない構造となっているため、基本的には低眼圧になる危険性は少ないですが、弁が壊れていたり、チューブを挿入した穴の傍から房水が漏れたりしてしまうと、眼圧が下がりすぎて脈絡膜剥離や低眼圧黄斑症を発症して、視力が低下することがあります。
チューブ内にナイロン糸を入れて濾過量を調整したり、バルブを抜いて新しいバルブを再挿入する場合があります。
5. 悪性緑内障
毛様体で作られた房水は、本来は目の前の方に流れますが、手術によって目の後ろの方(硝子体腔)に流れるようになってしまい、高眼圧を呈することがあります。
目薬、レーザー、追加の手術が必要になる場合があります。
6. 斜視
バルブを強膜に縫い付ける際に目を動かす筋肉を傷つけてしまったり、バルブ自体が筋肉の動くスペースを占拠してしまうことにより、目の筋肉の動きが悪くなり、目の位置がずれてしまったり、両眼で見ると物が二重に見えてしまったりすることがあります。
プリズム眼鏡による矯正や、斜視の手術が必要になります。
上記合併症により、手術時間が延長したり、再手術が必要になる場合があります。
また、現在よりも視力が低下する、最悪の場合失明に至ることがあります。
手術後の留意点
結膜下出血
手術直後に、結膜(白目)の出血で目が赤くなり、元に戻るまで2-3週間かかることがあります。
結婚式や集会などで写真撮影を控えている場合はご注意ください。
疼痛・異物感
手術後は「ゴロゴロ感」「しみる感じ」「軽い圧迫感」などを感じることがありますが、強い痛みを感じることは通常ありません。
しかし、眼の状態が特殊であったり、手術中に特別な処置を施す必要があった場合には、稀に強い痛みを感じることがあります。
手術直後に強い痛みを感じる場合は、痛み止めの薬を処方しますので、遠慮せずに職員にお伝えください。
手術後の視力低下
手術時間が長く、また角膜付近の結膜を縫合するため、手術後は目の中の炎症や角膜乱視が強くなります。
炎症や乱視が軽減するまで1ヶ月程度かかるので、その間は手術前よりも見えにくくなります。
手術後の生活
術後の点眼・入浴・洗顔・洗髪・仕事復帰・車の運転などは別紙の指示に従っていただきますが、気になる点がありましたら職員にご相談ください。
緑内障自体が治るわけではない
緑内障は神経の病気であり、完治が見込める病気ではありません。
手術はあくまでも眼圧を下げて緑内障の進行速度を遅くするのが目的であり、手術をしても緑内障が完治したり、視野や視力が改善することはありません。
再手術の可能性
手術後1−2ヶ月するとバルブの周囲に被膜が生じて房水の排出が悪くなり、眼圧が再上昇することがあります。
眼球マッサージを行って被膜の癒着を解除したり、点眼を追加して眼圧をコントロールしていきますが、眼圧コントロールが不良の場合は再手術が必要になります。
また、手術後しばらくしてバルブ・チューブが強膜や結膜上に露出してくることがあります。
放置すると眼内炎発症の危険性があるため、バルブ・チューブを再度強膜や結膜で覆う手術が必要になります。
代替可能な治療
1. 点眼
目薬の種類を変更したり、目薬の数を増やしたりすることで、眼圧を下げます。
目薬の効き目には個人差があり、眼圧が下がらなかったり、アレルギーにより使用できない場合があります。
2. レーザー線維柱帯形成術(SLT)
線維柱帯にレーザーを照射することで、房水の排出を増やして眼圧を下げます。
レーザーの効き目には個人差があり、眼圧が下がらなかったり、一度下がってもしばらくして再上昇することがあります。
3. 流出路再建術
目詰まりを起こしている線維柱帯を切開して、房水の排出量を増やすことで、眼圧を下降させます。
濾過手術や緑内障治療用インプラント挿入術に比べて安全性が高いですが、眼圧下降効果はやや弱いため、初期の緑内障や目標眼圧があまり低くない緑内障に対して行います。
4. 濾過手術(緑内障治療用インプラント挿入術(プレートのないもの)を含む)
線維柱帯を切除して目の中と外を交通させ、新たな房水の出口を作ります。
流出路再建術よりも眼圧下降効果が大きいですが、手術時間が長く合併症も大きいです。
5. 毛様体光凝固術
目の外から毛様体にレーザーを照射して、房水の産生を抑え、眼圧を下げます。
マイクロパルス波毛様体光凝固術というものもあり、こちらは房水の排出を増やして眼圧を下げます。
予想以上に房水が作られなくなってしまい、眼球癆(眼球が縮んで、目としての機能を失う)になるリスクがあります。
特殊なレーザー装置が必要で、扱っている医療施設が限られています。
6. 白内障手術
白内障がある場合、白内障手術を行うことで眼圧がわずかに(1-2 mmHg)減少します。
手術を行わなかった場合に予想される経過
自然経過では緑内障の進行を抑えることができません。
加齢とともに緑内障は進行していき、視野障害や視力障害が悪化し、日常生活に支障をきたします。